北重人著「月芝居」
2013-03-18


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北重人作品の6冊目「月芝居」を読んだ。江戸時代晩期の「天保の改革」が時代背景の物語である。天保の改革に関わった歴史上の人物が作中に相次いで登場する。老中・水野忠邦、元北町奉行の大目付・遠山金四郎、南町奉行・鳥居耀蔵といった面々である。
 興味深い話も出てくる。江戸時代の地面屋と呼ばれた不動産業の実態である。また武家の江戸藩邸の実態もつぶさに描かれる。幕府から下賜される拝領屋敷と武家がみずから屋敷地を取得する抱え屋敷があったという。この作品は拝領の江戸屋敷を失った三千石の旗本寄合衆の江戸藩邸留守居役・小日向弥十郎が主人公である。弥十郎が抱え屋敷を求めて奔走する過程で、天保の改革を時代背景とした江戸の闇に行きつくという物語である。
 都市計画の専門家でもあった著者ならではの江戸の町づくりにも関わる興味深い題材の作品といえる。とはいえ、舞台設定こそ異色ではあるが、ストーリー展開は著者の得意とするミステリー仕立ての冒険時代劇である。巧みな文章と物語性に富んだ展開で一気に読ませてしまう作品だった。
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