塩野七生著「ローマ人の物語23」
2024-09-25


塩野七生著「ローマ人の物語23」を再読した。この巻は「危機と克服」と題された皇帝ネロの死からトライアヌス登場までの30年の物語の下巻である。前巻では皇帝ヴェスパシアヌスが病に倒れて亡くなるまでの10年間の見事な帝国再建の物語が綴られた。
 この巻ではヴェスパシアヌスの二人の息子による皇位継承後の帝国の統治システムと安全保障の強化に尽力した17年間が語られる。父親の後を39歳の長男ティトゥスが継いだ。30才の時に父親が皇帝となり、その頃から皇帝の補佐役の任務をこなしていたティトゥスは誰もが認める優れた資質を備えた後継者だった。
 ところが良き皇帝でありたいと誠実に職責を果たしていたティトゥスは思いがけない災厄に襲われる。ヴェスヴィオ山噴火によるポンペイ全滅と首都ローマの火災である。この二つの災厄の収拾に追われる中で病に倒れ亡くなってしまう。
 ティトゥスのわずか2年の治世の後を、弟ドミティアヌスが継いだ。ドミティアヌスの15年に及ぶ治世は、ゲルマニア防壁等の安全保障、内乱の収拾、公共事業、内閣・司法・地方自治等の統治システムの強化等の多くの業績を残した。反面で治世の後期には終身財務官就任の独裁化やデラトール(密告)の恐怖政治等による元老院との対立を招いている。そうした不穏な情勢もあって最後は女性問題を巡る皇后との確執の末に皇后付きの解放奴隷の集団によって暗殺されてしまう。
 ドミティアヌス亡き後の皇帝には70才の高齢で”ショートリリーフ”と目された穏健な中道派で執政官経験者のネルヴァが就任する。それは後代に「五賢帝時代」と称される時代の幕開けとなった。
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